アメリカには「You are what you eat.(あなたは、食べたものによって作られている)」という言葉があります。日本でも古くから、「食が血(血液)となり、肉(細胞)になる」という考え方があります。
人間は約60兆個の細胞からできていて、その全ての細胞は日々の食べ物から作られています。つまり私たちの毎日の食べ物ひとつひとつが自分の血や細胞、骨や神経や脳や皮膚、歯や歯ぐきを作っているのです。
あなたも生命の元である、自分の毎日の食生活を見直してみませんか?
ところであなたは「歯は歯科医院で治すもの」とお考えではありませんか?
結論から言うと、歯科治療には残念ながら限界があるのです。もちろん歯科医院ではあなたの悪くなってしまった歯や歯ぐきの治療は可能です。
しかし歯科治療は他科と違い自然治癒力がなく、決して元通りに治るものではないので、時間の経過とともに悪くなる一方なのです。もし治療をしても“もたせる”か“抜く”しかできないのです。
ですからできる限り虫歯や歯周病にはならないように予防をしていただくことが大切ですし、治療済みの歯は定期的な予防処置(メンテナンス)に通って悪くならないようにしなければならないのです。
歯や歯ぐきを悪くした根本の原因を治せるのはあなた自身の身体です。あなたのお口の健康そして全身の健康を維持するためには「快食・快眠・快便・ストレスコントロール」が欠かせません。
しかしお口の中に虫歯や歯周病などの病気が存在すれば、「快食・快眠・快便・ストレスコントロール」は充分機能できなくなってしまいます。そして虫歯や歯周病だけでなく、生活習慣病(高血圧・高脂血症・肥満・糖尿病・心臓病・脳卒中)などの病気は、主に毎日の食生活が原因の病気である「食源病」と考えられています。
もしあなたのお口の中に虫歯や歯周病が現われたとしたら、それはあなたの身体の生活習慣病の一部として、お口の中に現われた一症状なのです。つまり、「虫歯や歯周病、生活習慣病などの病気は毎日の食生活習慣で決まる」と言っても過言ではありません。
また古代ギリシャの名医で「医学の父」といわれるヒポクラテスは「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」という言葉を残しています。
「医食同源」という言葉があるように、「食源病」はできるだけ毎日の食事から改善・予防しましょう。
「食育」という言葉があります。
2002年に当時の小泉純一郎首相が、知育・体育・徳育に加えて「食育」の大切さを主張し、その3年後に「食育基本法」が成立したことを記憶されている方もいるかもしれません。
新しい言葉のようですが、実は、明治時代の料理小説「食道楽」の中で、村井玄斎という作家が、「先ず知育よりも体育よりも一番大切な食育のことを研究しないのは迂闊(うかつ)の限りだ」と「食育」の大切さを指摘しています。
現代の日本人の食卓事情を見直すと、生活習慣病につながる肥満者や低栄養傾向の人の割合が増えるなど、今日ほど食のバランスが崩れている時代はありません。
特にわが青森県は9年連続短命県ワーストワン(2017年現在)という不名誉な記録を樹立しています。
もちろん短命県青森の原因を食生活だけで語ることはできません。
さまざまな要因が挙げられます。
しかし、短命青森ケンミンの食生活においては特徴的な「ある問題」が浮き彫りとなってきました。
文部科学省の調査によると、この約30年で日本の肥満児は3倍も増加しており、中でも青森県特にむつ下北地区の子どもの肥満割合は全国トップクラスです。
また小中学生の高血圧や高脂血症、糖尿病が急増していることも問題になっています。アトピー性皮膚炎などさまざまなアレルギー疾患も減る様子はありません。もはや、「小児生活習慣病」という言葉も違和感がなくなりました。
その背景には現代の子ども達の生活習慣、主に運動不足や睡眠不足(テレビ・ゲーム・塾通いなどの影響)のほか、やはり食生活の問題があることは間違いないでしょう。
食育は決して子ども達だけでなく、すべてのライフステージの人々にとって、生きる力を育んでいくものです。健全な食生活とはどのようなものか、何を誰と食べるかなど、自らがきちんと考えて、選択する力も養わねばなりません。他人事ではなく、自分のこととして、改めて「食」と向き合ってみたいものです。
私たちの歯科医院では、「虫歯・歯周病・生活習慣病の予防」と「短命県青森と短命むつ下北返上」のために今できることを考え、「歯科食育」プログラムを立ち上げることにしました。今マスメディアやインターネットを中心に、食と健康に関するさまざまな情報や知識が飛び交っています。一方でライフスタイルも家族構成も価値観も皆それぞれ条件は違います。ですから「理想的な食事」や「万能な食べ物」などの「正解」はないと思います。それらを踏まえた上で、当日は私たちなりの「歯科食育」の見解をお伝えしたいと思います。
あなたには、自らが食について考える習慣や食に関するさまざまな知識、そして食を選択する判断力を楽しみながら身につけていただければこの上ない喜びです。
食は「人」に「良い」と書きます。「良い食べ物」や「良い食べ方」が「良い人」を作ります。「食は命の土台、健康は人生の土台」です。そして口は「命の入り口」です。
口が「病の入り口」「災い(=病気)のもと」にはならないように、自然の力を借りて免疫力・自然治癒力・代謝力を高めて、心身ともに健康(健口)で豊かな人生を過ごしましょう。
現在45兆円を超えた国民医療費の削減こそ日本国民の緊急課題です。一方で65歳以上が3000万人以上の超高齢化社会も目前に迫っています。毎日の食事から、自分の健康を自分で守りましょう。
私たちはこの「歯科食育」プログラムを通してそのお手伝いをさせていただきたいと考えています。日本の未来を担う地域の子ども達のために、あなたの傍の大切な人のために、そして誰よりもかけがえのないあなた自身のために。